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ハムストリングス損傷に対するリハビリテーション・競技復帰

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タイトル

Rehabilitation and return to sport after hamstring strain injury

PMCID: PMC6189266 

はじめに

アスリートにおけるハムストリングス損傷は広範囲にみられます.
ハムストリングス損傷の1/3は再発し、スポーツ復帰後2週間以内が再発のリスクが
高まります.この再発率は不十分なリハビリテーションや早期の競技復帰またはその両方
が含まれます.
よって今回の目的はハムストリングス損傷後のリハビリテーションの質の改善を
高めることと競技復帰のための意思決定を確立することである.

疫学

ハムストリングス損傷が高いスポーツはスプリント、キック、サッカー・ラグビー・陸上
などのスピード競技が挙げられる.またダンスなどの過剰な筋の延長が伴うスポーツがある.
多くのハムストリングス損傷はランニングやスプリントなど非コンタクトによる
メカニズムが要因である.また女性より男性の方がハムストリングス損傷が64%
高いことが分かっている.

リスクファクター

急性のハムストリングス損傷は回復まで時間を要する.
およそ1/3のハムストリングス損傷は競技復帰後2週間に再発率が高くなる.
これらは不十分なリハビリテーションや競技復帰の基準が曖昧であることが
考えられる.
他の要因は負傷した筋の衰弱や瘢痕組織の伸張性の低下、最初の損傷後
スポーツ動作のバイオメカニクスと運動パターンの適応的変化などが
挙げられる.
先行研究では年齢やハムストリングス損傷の既往が影響すると報告.
修正可能な要素としてはハムストリングス筋力低下や疲労、ハムストリングスの遠心性と
大腿四頭筋の求心性のアンバランス、大腿四頭筋の柔軟性低下、股関節屈筋の柔軟性低下、
骨盤と体幹の協調性低下が挙げられる.
リハビリテーションによって修正可能なリスクに対処することで
再損傷のリスクを減らせることができると推測される.

予後

ハムストリングスの重症度は、非常に軽度のものから非常に重度のものまで様々である.
ハムストリングス損傷の予後はMRI、症状、特異的・機能的テストを中心に行われてきた.

臨床テスト基準としては受傷後5日以内に評価した場合、VAS6以上、ADLで痛みが3日以上
続く、受傷時のポッピング音、健側と患側でSLRが15°以上差がある.これらの基準を
満たすと回復期間が長期化する(スポーツ復帰40日以上).

オーストラリアのサッカー選手を対象とした研究では
1日以内に痛みなく歩ける場合と1日以降に痛みなく歩ける場合とを比較すると
1日以上痛みが続く場合はスポーツ復帰に3週間以上かかる可能性が
4倍になると報告している.

可動域からも予後が判断可能となる.
背臥位で股関節90°屈曲位から自動で膝を伸展するテスト(SLR test )で
健側と患側の左右差を比較することで競技復帰の予後が分かる.
ハムストリングス損傷後左右差
10°以内であれば6.9日
10°~19°であれば11.7日
20°~29°であれば25.4日
30°以上であれば55日
このテストはハムストリングスの柔軟性を評価する検査である.
急性期の自動膝伸展角度の欠損は組織の炎症段階における痛み及び
神経生理学的メカニズムに関連している可能性が高い.

エビデンスのあるリハビリテーションプログラム

リハビリテーションプログラムでは遠心性のトレーニング神経筋コントロール
エクササイズ
がハムストリングス損傷の再発を減らすことが示されている.

Asklingらは急性のハムストリングス損傷患者に対して
遠心性トレーニングを意識した(Lプロトコル)トレーニングと遠心性トレーニングを
意識しない(Cプロトコル)を比較すると遠心性トレーニングを意識した方が
スポーツ復帰までの期間が短縮された
と報告.
このことから遠心性トレーニングを取り入れたプログラムが有効であることが
示唆される.

SherryとBestは急性のハムストリングス損傷患者に対して
アジリティと体幹のスタビライゼーションのプログラム(PATS プログラム)は
ストレッチと筋力トレーニングのプログラム(STST プログラム)と比較して
損傷の再発が優位に減少したと報告.
競技復帰の期間はPATS プログラムは22日、STST プログラム37日と
神経筋コントロールプログラムの方が競技復帰が早いことが分かった.

競技復帰の基準

今のところ標準化はされてなく、明確な客観的基準がないためスポーツ復帰の明確な
コンセンサスは得られていない現状がある.
多くの場合、推奨事項は曖昧で、左右差のないROM、筋力、
機能的能力(ジャンプ、ランニング)が痛みなくできればスポーツ復帰可能であると
述べられている.

Asklingらは受傷した下肢に圧痛がないことや柔軟性テストで左右差10°未満、
MMTで痛みや左右差がない事を挙げている.

Malliaropoulosらは等速性筋力テストで患側と健側で筋力差が5%未満である
ことが復帰基準であると報告している.

Asklingらはアクティブハムストリングステスト(H test)で不安なく可能な限り
早く脚を挙上できることを基準としている.
損傷した側でこのテストを行うと95%のアスリートが健側と比較して股関節屈曲速度が
遅いことが分かった.このテストを行い陽性の場合は再度1~2週間のリハビリテーション
を行う必要があることを推奨している.

機能的なテストとして一側下肢でのブリッジテスト(single leg hamstring bridge)がある.
オーストラリアのサッカー選手を対象とした研究では
ハムストリングスの筋力を一側のブリッジテストを用いて評価した.
30回以上可能であれば再発のリスクが低いと述べている.
このテストは可能な限り早く強い強度で取り込むよう提唱されている.

以下がスポーツ復帰までの基準となる.

圧痛、等速性筋力、H test、一側ブリッジテスト、スポーツ特異的テスト
上記の順でクリアすればスポーツ復帰が可能となる.

アクティブハムストリングステスト(H test)の紹介
まとめ

今回はハムストリングス損傷後にリハビリテーションプログラムやスポーツ復帰基準
について紹介しました.

リハビリテーションプログラムに関しては
遠心性トレーニングアジリティ(神経筋トレーニング)体幹スタビライゼーション
再発予防には有効であることが述べられています.

スポーツ復帰の基準に関しては
圧痛の有無筋力の左右差が5%以内H testで左右差なし
片脚でのブリッジが30回以上痛みなく可能競技場面で痛みや不安感がない.
上記の順でクリアすればスポーツ復帰可能の目安であることが述べられています.

今回の論文はレビューであるため引用論文も読む読む必要がありますが
とても参考になるのではと思います.

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