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慢性疼痛に対する理学療法

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今回は臨床で難渋することが多い慢性疼痛に対して理学療法士として
どのように向き合っていくべきかを説明します。

慢性疼痛について

慢性疼痛の定義

国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)
は慢性疼痛に対して以下のように定義しています。
3 ヶ月以上持続する、または通常の治癒期間を超えて持続する痛み

疼痛は主に3つに分類される

器質的疼痛:侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛

非器質的疼痛:心因性疼痛

侵害受容性疼痛とは
骨折・打撲・火傷など炎症や刺激によって生じる痛み

神経障害性疼痛とは
神経(末梢神経・脊髄・脳)の器質的な損傷により生じる痛み

心因性疼痛とは
心理社会的要因によって生じる痛み
※心理社会的要因:ストレス、家族・学校・職場の問題、対人関係、経済状況など

急性疼痛と慢性疼痛の比較

慢性疼痛のメカニズム

国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)
は「身体の局所に痛みが3カ月持続すると中枢神経系(脳と脊髄)に変化が生じる
と述べています。

中枢神経系変化とは中枢性感作下降性疼痛抑制系が関わっています。

中枢性感作とは
「通常であれば痛みが生じない程度の刺激に対する中枢神経の過剰な反応」となります。
つまり脳のセンサーが過敏になっている状態です。

下降性疼痛抑制系とは
「脳から脊髄に向かって(下降して)過剰な痛みの伝達を抑えるシステム」です。
下降性疼痛抑制があることで内因性オピオイドを放出して痛みの信号を抑制
してくれます。

慢性疼痛は中枢性感作下降性疼痛抑制系の機能不全の2つが
痛みを長期的に生じさせている原因だと近年言われています。

評価方法

慢性疼痛は中枢性感が関わっていると説明しました。
なので中枢性感作を評価するスクリーニングツールが使われます。

日本語版Central Sensitization Inventory (CSI)
ダウンロードはこちらから。

患者自己記入式の質問票で25項目の質問があります。
カットオフは40点であり、40点以上の場合に中枢性感作が疑われます。

理学療法内容

慢性疼痛治療ガイドラインで推奨されている治療は
運動療法認知行動療法集学的リハビリテーションがあります。

運動療法の有効性

近年、運動療法(特に有酸素運動)が慢性疼痛に有効であると言われています。

運動により疼痛が緩和する(exercise-induced hypoalgesia:EIH)メカニズムは
上の図のように内因性オピオイドが関与してると言われています。

認知行動療法の有効性

また、慢性疼痛は中枢神経の可塑性変化が関与しているため
認知行動療法を併用してリハビリを進めることが効果的です。

認知行動療法とは
痛みの捉え方や考え方を変えていくことで 最終的に痛みを
セルフマネージメントしていく治療法となります。

慢性疼痛の症例は破局的思考と言って
痛みに対して偏った考えや負の感情を持っています。
そこで認知行動療法を通して行動変容を修正するアプローチです。


認知行動療法にも色んなアプローチがありますが
理学療法士が行えるアプローチは
ペーシングスキルコーピングスキルの教育があります。

ペーシングスキルとは
活動量を自分の状態に合わせてコントロールする能力です。

慢性疼痛患者は運動や活動のペースを調整するのが苦手で
全く運動をしない、または運動し過ぎてしまう場合があります。

上手くペーシングが出来ないと失敗体験が続き自己効力感が低下
する可能性があります。

オーバーワークを防ぐためにも
運動はやればやるだけ良くなるわけではない」と教育しましょう。

コーピングスキルとは
痛みが出たときに自分で対処する能力です。

痛みが出たり・悪化しても自分で対処できる」という自信が
不安や恐怖を解消し活動量を維持できることに繋がります。

慢性疼痛には運動療法教育を組み合わせることが重要です。
運動は筋骨格系のトレーニングだけではなく「脳トレ」にもなります。

集学的リハビリテーション

集学的リハビリテーションとは
様々な領域の専門医をはじめ、薬剤師、看護師、理学療法士、臨床心理士
など複数の職種の医療者が協力して診療を行うことです。

慢性疼痛は心理社会的要因が大きく関わっているため
患者の情報を様々な視点からアセスメントして、適切な治療方法へと
導くとても有効的なアプローチとなっています。

私も愛用しているこちらの参考書は集学的リハビリテーションについて
色んなケーススタディーを通して学べるのでとても参考になります。

慢性疼痛のゴール設定

慢性疼痛の目標は痛みをゼロにすることを目的するのではなく
ADLとQOLの向上に焦点を当てましょう。

ゴール設定は痛みが減ればやってみたいことを見つけて
そのゴールに向かて、短期ゴールを立てましょう。

まずは長期目標を立てましょう
例えば、仕事に復帰する、趣味活動を再開する、外出頻度を増やす

次に短期目標を立てましょう
例えば、少ない労働時間で働く、運動習慣をつける、毎日散歩をする

最終的に痛みがあっても長期目標のゴール設定を達成することを視野に
患者さんと向き合っていくことが大切となります。

まとめ

今回は慢性疼痛に対するリハビリテーションを説明しました。

慢性疼痛は中枢神経感作が大きく関わっているので
適切に評価して、中枢神経感作が疑われた場合は
運動療法(有酸素運動)と認知行動療法(教育)を組み合わせる
ことが科学的根拠がある治療となっています。

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